靑なのか綠なのか
「信号機の靑色は本当は綠色だから『靑』信号はおかしい」とまじめにいふ者がいまだにゐる。子供がいふのならわかるが、なぜか信号の色に限り大人もいふ者がある。
健康な目を持つだれもが、色をならべて見れば、靑色と綠色の區別はつく。靑色と綠色と薄みどり色の区別も、もちろんつく。靑色と綠色と薄綠色ともえぎ色の区別もつく。
靑りんごを見せられ、「これは靑ですか、綠ですか」と問はれれば、「綠です」とこたへる。「綠ですか、薄みどりですか」と問われれば、たぶん、多くは「薄みどりです」とこたへやう。見せられたりんごにもよるが。
「靑」のつくことば
靑のつくものの名前はたくさんある。思ひついたものをならべてみると、
- 靑りんご
- 靑信号
- 靑うめ
- 靑かび
- 靑さかな
- 靑汁
- 靑空
- 靑あざ
- 靑たん
- 靑とうがらし
- 靑菜
- 靑葉
- 靑豆
- 靑物野菜
きりがない。「靑天井」や「靑い顔」も入れたらもつとある。
色の數は無數、言葉の數
ものの色は無數にある。それを限られた數の言葉であらはす。色の名前もしかり。
おほよそのことは、「靑」「赤」「白」「黑」を使ふ。さらに詳しくわける必要があれば「黃」「茶」「綠」「紫」らを使ふ。まだまだ分けるなら、「もえぎ」「柿」「臙脂」「えび茶」などを動員する。最後の最後は電磁波の周波数と強度の有効桁数とをどんどん上げる。
つね日ごろの暮しで、そこまで細かな色の違ひを使ひわけることはまずなく、基本的な色で物ごとをあらはす。こどもは、はじめは言葉をたくさん知らぬが「あを」「みどり」のことばを知る。色の違ひもわかる。 それで不思議に思ふ。しかし、いづれ言葉をたくさん知り、言葉の使ひ方を知る。その中に、色の名の使ひ方もある。「靑」は狭い靑色だけではなく、他の色と區別をつけるための名だと知る。
ことばの決まりごとは、いはゆる文法だけではありません。ひとつひとつの言葉の使ひ方や広がりも含めてことば決まりごとになる。信号機の靑信号を綠と云ひ張るひとは、きつと言葉の使ひかたを學び損ねたのでせう。
(了)