日本での中國といふ言葉
「中國」といふことばがあります。日本で古くから使はれてゐます。くにの中心といった意味で、ふつうは畿内を指します。簡單にいふと天皇おられるところです。續日本記という書物には次が見えます。
今でいふ鹿児島縣の奄美地方あるいは吐噶喇列島のひとが朝廷の使者にしたがひ貢物をもって來たことをもって畿内に通じたはじまりとなる、といった意味。文武天皇の三年のことですから、西暦でいふと700年頃、これが書かれたのは平安時代のはじめ西暦800年頃になり1200年も前のことで、まことに古い。
廣島も中國
あたりまへですが、日本の中國地方も中國です。これは、中心といふ意味ではありません。もとは、山陽道が山陰道と南海道との間にあること、あるいは、畿内と九州との間にあることから、中國といふやうになりました。中間にあるくに、といふ意味です。
たとへば、「中國大返」。戦国時代、豊臣秀吉が、備中(今の岡山縣の一部)で毛利軍と戰をしてゐるさなか、織田信長の本能寺の報を受けるやいなや、すぐさま毛利攻めを終はらせ、今の岡山からすぐさま京へ引き返したできごとです。
中國電力、中國銀行、中國新聞も中國にある
古い話を持ち出すこともなく、中國と名のつくものはたくさんあります。たとへば、中國電力、あるいは、中國銀行、中國新聞などの會社がふつうにあります。いづれも、廣島縣か岡山縣に本社がある有名な会社です。
支那のことを「中國」といふと、このやうな會社がどこにあるかわからなくならぬのでせうか。みなさんはどのやうに折り合ひをつけてゐるのでせうか。
Bank Of Chinaが中國銀行を日本で名乘ること
最近、Bank Of Chinaといふ支那の銀行が「中國銀行」と名乘り日本にも支店を置きはじめてゐますす。もとからある中國銀行と同じ名前です。
支那の銀行は「中國銀行」表記し、岡山の銀行は「中国銀行」と表記しています。これで別のものといふつもりならまやかしです。「國」も「国」も同じ字です。
メキシコにある銀行が 自國でBank Of Americaと称し、次いで同じ名前で米國に支店をおくやうなものです。私は法律に詳しくありませんが、別の組織が同じ名を名乗るのは許されるものではないと思ひます。
また、その傳でいふなら、支那の電力會社や新聞社が、日本に中國電力や中國新聞を名乗って良いことにもなります。
漢字の字体が異なるから別であるといふのであれば、「東亰電力」も「讀賣新聞」も「樂天銀行」も、勝手に名乘れることになります。これが合法であるならば、法に不備があります。あるいは、法の解釈に誤りがあります。
天気予報はことさらに「中國地方」
テレビなどが日本全國の天気予報をいふ場合には、「九州は…」「関東は…」「東北は…」といふのに、中國は必ず「中國地方は…」といひます。決して「中國は…」とはいひません。放送局の内規があるのでせう。あるいはどこかからの圧力があつたのでせう。不思議なものです。
ひどいのは「中四國」、「関東北」とは言はぬのに
時には、中國と四國をまぜて「中四國」といふことさへあります。中國と四国のひとに失礼なことです。関東と東北をまぜて「関東北」といはれたらどうですか。
昔はソビエト・ソ連と呼んでゐたのと同じ
ロシアといふ國があります。少し前まではソビエトとかソ連とか呼んでゐました。そさらにその前はロシアです。日本では、律儀にソ連と呼んでいました。ロシアといふと間違いとされていました。
当時アメリカは、ロシアだろうがソ連だろうが「ロシア」と呼んでいました。無論、外交の場合は正式名称のUSSR (Union of Soviet Socialist Republics)でしたでせう。その國の体制などをいふ場合には、Sovietともしていました。それがあたりまへのことです。
それでも、当時でさへ、ソビエトで話される言葉は、ソビエト語、ソ連語とはいはずロシア語と呼んでゐました。それが正しいのです。
そろそろ支那を中國とよぶのはやめませう
支那を中國と呼んでも、何も得るものなく、ただ混乱のみ。しかも間違ひでもある。まだ、「チャイナ」「チャイニーズ」の方が正しく、マシです。
もうそろそろ、支那を中國と呼ぶのはやめませんか。まだ間に合ひます。岡山の中國銀行が「自らの意思で」その銀行名をかへる事態が來る前に。
了