外國人とは英語で話す
外國人と会話をするとき、何語で話すことになるか。幸ひにして、もし相手が日本語に堪能なら日本語で会話することになる。
とはいへ、大概の場合は、英語で話すことになる。なにも、普段から英語を話してゐるアメリカ人やオーストラリア人と話す場合だけでなく、たとへ、英語を母國語とせぬ者同士でも、例へば、日本人がドイツ人と話す場合、あるいは、ブラジル人と話す場合など、たとへ英語を母国語とせぬ人と話す場合であつても英語で話すことになる。
外國の地名は惱まし
英語で会話をするときに、問題となることのひとつに地名がある。地名の呼び方である。中でも、ヨーロッパの地名が特に困る。日本語での呼び名と英語での呼び名で大きく異なることがままあるから。
日本語で外國の地名を話すときには日本語式に呼ぶ。あたりまへのことだが。ドイツなら「ドイツ」と呼び、パリなら「パリ」といふ。仕事の都合で英語で会話をすることが多いひとでも、例へば旅行関連などの職業でない限りは、会話の中に地名が出ることはまづない。それゆゑ英語の地名はなかなか覚へられぬし、いざ必要になつてもすぐには口に出て來ぬ。ほんの一瞬の間、ことばがつまり、まごつく。
咄嗟に出ない英語でのヨーロッパの地名
私の経験上、英語が咄嗟に口に出てこぬ地名の代表は次。
日本語 | 英語 (発音が近しいカタカナ) |
---|---|
ドイツ | Germany / German [dʒɜːməni] / [dʒɜːmən] (ジャマニ/ジャマン) |
ミュンヘン | Munich [mjuːnɪk] (ミュニク) |
ベルリン | Berlin [bɜːˈlɪn] (バリン) |
フランス | France / French [frɑːns] / [frentʃ] (フランス/フレンチ) |
パリ | Paris [pærɪs] (パリス) |
イタリヤ | Italy / Italian [ɪtəli] / [ɪˈtæliən] (イタリ/イタリアン) |
ヴェネツィア | Venice [venɪs] (ヴェニス) |
ローマ | Rome [rəʊm] (ラウム) |
ミラノ | Milan [mɪˈlæn] (ミラン) |
スイス | Switzerland /Swiss [swɪtsələnd] / [swɪs] (スウィツァランド/スウィス) |
ジュネーブ | Geneva [dʒəˈniːvə] (ジャニヴァ) |
オランダ | Netherlands / Dutch [neðələndz] / [dʌtʃ] (ネザランズ/ダチ) |
ギリシャ | Greece / Greek [ɡriːs] / [ɡriːk] (グリス/グリク) |
アテネ | Athens [æθənz] (アセンズ) |
由来はさまざま
日本語での外國の地名の呼び名のおほかたは、ポルトガル語、オランダ語、現地語のいづれかが由来でせう。「ドイツ」はたぶんオランダ語の
英語と現地語のまぜこぜがややこしい
ややこしいのは、英語と似てゐたり英語とまぜこぜになつている場合。パリは英語ではParis(パリス)と発音し綴りどほり最後のsを発音してスの音が來る。日本語でいふ「パリ」はフランス語が元か。
「イタリア」に至つては、國名は「イタリア」とイタリア語読みするのに、日本語で形容詞的にいふ場合には、「イタリアン」と英語風にいふ。イタリア語ならItaliano(イタリアーノ)といふところ。ならばいっそのこと、英語読みでとほして、「イタリー」と「イタリアン」だけで良いのではないか。「ベニス」と「ベネチア」は別物だと思ふているひとが大勢ゐるやうに思ふ。
國名の「フランス」は英語とフランス語とで発音同じだから、これは両方とも英語読みともいへるか。だが、「フレンチ」は英語。これに相当するフランス語は「ル フランセ」でせうか。これは日本では誰もほとんど使はぬ。
覚へるしかない
仕事で外国人と話すときは英語で会話することになる。それは間違ひない。日本人も日本のことをいふときにはJapanといふ。Nipponとはいはぬ。Nipponでは相手に傳はらぬ故。逆に、日本語の単語が少しだけわかる外国人と話してゐて、英語で話しているにも関はらず日本語をまぜて話されると理解が澱んでしまふ。
いづれにせよ、英語の學習者はこれらをひとつひとつおぼへるのみ。數は知れてゐる。
ドイツ人が日本のことをドイツ語でヤーパンと呼ばうがジャパンと呼ばうがいつかうにかまはぬ。ならはしといふものがあるのも分かぬではない。ならば、英語で読み慣はしているものは英語のままでもよいではないか。ベニスはいつのころからかヴェネチアと呼ぶ人が現れたが、無理繰りなことまでしなくてもよからうに。
(了)